三浦先生が「みずほ学園30周年記念誌」(2002年4月)に寄稿した解説文

新施設の基本設計のねらい

三 浦 昌 生

 平成11年7月から平成12年3月まで私は、新施設の基本設計として、設計の方針を立て、部屋の配置や建物の外観を考えながら平面図などを作成する作業を行いました。

 まず施設を利用する人の要望を細かく聞き取り、それを整理することから始めました。「利用者の望む建物を作る」という単純で当たり前のことが意外に難しいのです。それと同時に現在のみずほ学園の建物がどのように使われているかも調べました。

 現在の建物の特徴は長い廊下です。ここは子供達の遊び場にもなるし、訓練の場にもなります。建物の南側には園庭があってここでも子供達はよく遊んでいます。つまり子供達の活動が廊下と園庭で分かれてしまっている。両方の活動を連続させるともっと楽しいのではないかと考えました。

 そこで提案したのが、真ん中に園庭をもってきて、その園庭を廊下が囲む形にすることです。指導室から廊下に出るとすぐ目の前に園庭が広がる。廊下で遊ぶ子供と園庭で遊ぶ子供の声が入りまじります。職員や親達も廊下と園庭を同時に視界に入れることができます。

 思い切って建物の平面は四角形ではなく円形にしました。ゆるやかにカーブした廊下を進んでいくとそれまで見えなかったものが見え始める。次々に風景が変わっていく。子供達にとってわくわくするような楽しい廊下になるのではないかとひそかに期待しています。

 建物に囲まれた園庭には環境上の効果もあります。気象データによると富士見市では冬に北西から強い季節風が吹きますが、建物がこうした冷たい風を防いでくれます。しかも園庭の南側は円形の建物が切れているので、夏は南東からの涼しい季節風が園庭や開け放った廊下に入ります。

 最近は室内の床に、「積層材」といって接着した強化木材をモザイク模様に組み合わせたもの(フローリングと呼ぶことが多い)をよく使いますが、新施設ではこれを使わず、厚いスギのムク板を張ることにしました。もともとスギは柔らかくて手足の感触が良く、しかも厚みのため断熱効果があって冬でも裸足で歩けます。

 トイレでは便器のサイズやレイアウト、指導室では作り付けの収納の寸法まで細かく打ち合わせをして決めました。

 新施設が竣工したら私の研究室の学生が子供達の動きを観察したり室内外の環境を計測したりして、実際私がねらったとおりになっているかを確かめる予定です。皆さんにも「利用者の望む建物を作る」という設計の大原則が守られているか採点していただきたいのです。